大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和40年(行ツ)99号 判決

上告人 ウエスタン自動車株式会社

被上告人 東京税関長

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人工藤舜達の上告理由第一の一、二、三について。

所論は、要するに、大谷恒の行為は物品税の通脱行為ではなく、上告会社の業務に関してされたものでもないし、また、上告会社について物品税逋脱罪の刑事裁判が確定してもいないにかかわらず、原判決が、上告会社は本件自動車について逋脱にかかる物品税の徴収を免れえないと判断したのは、物品税法(昭和三七年法律第四八号による改正前のもの)四条、一八条一項二号、同条三項、二二条、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和三五年法律第一〇二号による改正前のもの)六条五号、七条、一二条等の規定の解釈、適用を誤つている、という。

本件自動車につき、エウイング・ハツチンスが上告会社に輸入方を注文してから、右自動車が富士倉庫株式会社保税上屋から引取られ、上告会社の工場に搬入されるに至るまでの間の経緯等に関して、原判決のした事実の認定は、挙示の証拠に照らし是認することができ、また、この点に関する証拠の取捨判断も首肯することができる。以上の認定事実を含む原判決の適法に確定した事実に徴すれば、上告会社の従業員である大谷恒は、上告会社の業務に関し、免税特権を有してはいるが本件自動車について輸入の意思の全くない米軍属ラングホーフアーの名義を利用し、不正な手段で免税輸入の許可を受けてこれを保税地域から引き取つたのであるから、上告会社は物品税法四条にいう本件自動車の引取人であり、上告会社は同法一八条一項二号、二二条により罰金刑に処せられるべき地位にある者である。そして、同法一八条三項の規定が逋脱物品税の徴収を定めている法意およびこの点に関係ある諸規定を勘案すれば、右同項にいう犯人には、もとより、前記二二条の規定の適用を受くべき法人をも包含し、また、必ずしも、刑事裁判により確定されたもののみに限定さるべきではなく、ひろく、右一八条一項、二二条の規定の適用により、右一八条一項所定の罰金刑に処せらるべきものを合むと解すべきである。

所論は、ひつきよう、原判決のした事実の認定を非難するか、所論の諸規定に関する独自の見解を主張し、これらを前提として、原判決を攻撃するものにすぎず、原判決には所論の違法は存しない。所論はすべて理由がなく採用することはできない。

同第一の四、第二、第三について。

所論は、原判決が、本件課税処分には二重課税の違法はないとし、また、これに関連して、課税手続と刑事裁判手続との関係についてした判断は、関税法(昭和四一年法律第三六号による改正前のもの)一一八条二項、輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(昭和四一年法律第三九号による改正前のもの)一〇条の二等の規定の解釈を誤り、審理不尽、理由そごの違法があり、また、憲法三〇条に違背する、という。

おもうに、物品税法一八条三項の規定による物品税の徴収については、関税法一一八条二項の規定の法意および原判示の諸規定の改正経過等が原判示のとおりであることにかんがみれば、同条一項所定の犯罪に係る貨物について同条による刑事裁判の結果として没収が行なわれまたは没収に代わる追徴金の納付があつたときは、右貨物にかかる物品税はこれを賦課、徴収することはできないのであるが、没収が行われ、または追徴金の納付があるまでは物品税を賦課、徴収することができないわけではない(なお、刑事裁判における追徴金額については、物品税の賦課、徴収の有無にかかわることなく、物品税相当額を合むと解するのを相当とする)。

これを本件についてみるに、原判決が適法に確定した事実に徴すれば、本件課税処分がなされた当時、いまだ本件自動車にかかる前記関税法の規定に基づく刑事裁判の結果としての没収が行われておらず、また、追徴金の納付がなかつたことは明らかであるから、本件課税処分は、この関係においては、なんら違法ということはできず、原判決の判断は結論において正当というべきである。

所論は、ひつきよう、所論法律の諸規定について独自の見解を主張し、これを前提として原判決の違法をいうものであり、違憲の主張は、所論法律の独自の解釈を前提とするものであるから、結局、前提を欠くに帰するというべきである。所論はすべて理由がなく採用することはできない。

同第一の五について。

所論は、本件課税処分における納税告知書に関してした原判決の認定、判断を攻撃するが、この点に関する原判決のした事実の認定に挙示の証拠に照らし肯認することができ、右認定事実を含む原判決の適法に確定した事実および判示関係規定に徴すれば、原判決が上告人の主張は理由がないとした判断もまた正当である。所論は理由がなく採用することはできない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上朝一 色川幸太郎 岡原昌男 小川信雄)

上告理由

第一、原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

一、上告人に対し旧物品税法第二二条、第一八条第一項第二号、同条第三項、第四条の規定に基きなされた本件課税処分は違法であるにもかかわらず、それを適法とした原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

1 上告人の元従業員大谷恒の行為は旧物品税法第一八条第一項第二号に該当しない。

(イ) 本件自動車は日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(以下単に特例法という)第六条第五号、第七条の規定に基きラングホツフアーが適法に輸入したものである。

原判決は本件自動車を輸入したのは大谷恒および上告人であるとしているがそれは甚しく事実を無視している。本件自動車を輸入したのは実質的にも形式的にもラングホツフアー自身であつて上告人および大谷恒は手続的に関与したに過ぎない。即ちハツチンスは西独タイムラーベンツ株式会社より本件自動車を購入し、その所有権を一旦は取得し、右自動車をハツチンスがラングホツフアーに転売したのである。

ハツチンスがラングホツフアーに対して本件自動車を譲渡したことは甲第六号証の一特別代理委任状、同第七号証の一譲渡証で明らかであり、またそのことは米軍憲兵隊でも証明している。それは右譲渡証は単なる私文書ではなく、米空軍憲兵司令部ジエームスコフ・ウイントン大尉補佐官が作成した公文書であり、空軍憲兵隊登録係の認定印もあり、それによつてラングホツフアーが特例法第六条に該当する免税特権者として右自動車の免税輸入をする正確な資格を有しており、且つ同人が「自己若しくはその家族の私用に供するため本件自動車を輸入するものである」ことおよびハツチンスがラングホツフアーに対し本件自動車を譲渡するものであることを充分確めて証明しているのである。大谷恒および上告人としては右証明を信用するのが当然であり、それ以上の調査義務はない。

それによつて本件自動車の所有者となつたラングホツフアーはその意思に基き、右自動車を如何なる方法によつても処分できたのであり、必ずしも大根進一の意に従わないこともできたのである〈証拠省略〉。もしラングホツフアーが急に意思を変更し、自ら使用したり、または他の免税特権者に譲渡した場合でも、なお原判決は大谷恒および上告人が本件自動車を輸入したと主張するのであろうか。甚だ疑問である。

元来物品税法、関税法が予想する輸入とは貨物が事実上関税法による拘束から離れて内国貨物同様自由流通の状態に移ることをいうが、自動車は他の動産と異り登録が所有権の基本となつているため米軍人等の名で三Aナンバーにより保税倉庫より引取られてもこれにより直ちに内国貨物同様に流通はしない。

従つて本件自動車の所有名義人がラングホツフアーになつている限り、たとえ同人が単なる名義人であつてもそれは物品税法、関税法が予想している輸入ではない。

一方特例法第一二条の看做し輸入については関税法、物品税法が適用される旨規定されているのであるから、この看做し輸入こそ、物品税法、関税法の予想している輸入であるといわねばならない。

しかも三Aナンバーの自動車が日本に転売されるには当時二年以上の期間を要した〈証拠省略〉。そこで本件自動車にはラングホツフアー名義で三Aナンバーがつき、米軍憲兵隊の許可証のない限り日本人は右自動車に乗車することさえできないのであつて、大谷恒、上告人および大根進一は右自動車につき何等の所有権も占有権も取得しないのである。強いて考えるとすれば大根進一はラングホツフアーに対し、本件自動車を大根進一の意思に従い日本人に転売するよう要求する債権を取得しているという関係しか考えられないのである。

勿論債権的請求権についても、違法であるという見解もあるかも知れないが(法律上成立しないと考えられる)、本件課税処分における原判決の事実認定および法律解釈は大谷恒、上告人および大根進一がハツチンスより本件自動車を譲受けそれを加藤盛に譲渡したというのであつてあくまでも物件的に考えているのである(被上告人の昭和三六年一月一七日付準備書面)。

しかし大谷恒等が本件自動車について何等の処分権限も使用権も取得しないという事実関係をどの様に見ても、原判決のような結論には達しないのである。

それ故本件自動車の輸入手続を実質的に見ても本件自動車の実質的な所有者であるラングホツフアーが本件自動車を輸入したのであつて、大谷恒および上告人が輸入したものではない。

更に本件自動車の輸入手続を形式的に見ても本件自動車の輸入は特例法第六条第五号、第七条に基くものであり、それは駐留米軍人、軍属でなければ輸入できないのであるから、本件自動車を輸入したのはラングホツフアーである。上告人は外国自動車の輸入業務を行つていたが、外貨割当制のため、当時大谷恒および上告人が外国自動車を輸入することは不可能な状態なのである。

よつて形式的に見ても本件自動車を輸入したのはラングホツフアーである。

従つて本件自動車を大谷恒が不正輸入したと解釈している原判決には法令の解釈の誤り、または適用の誤りがある。

(ロ) 原判決が認定するように大谷恒および上告人がラングホツフアーの名義を利用して特例法第六条により本件自動車の不正輸入をし、本件物品税の納税を免れたというならば、当然それは正規に納税できる手続が存在せねばならないのにかかわらず、その手続はない。物品税を逋脱したというのは物品税を納付できるのに納付しなかつたことをいうのである。即ち正規の手続があつて始めて、不正な手段というものが考えられるのであつて、正規の手続がなくてそれを免れる手段のみ存在するというのは奇妙な理論である。

本件の場合特例法第六条によつて輸入されているが、その段階においては大谷恒等には関税、物品税を納付する手続が存在しないのであつて、その時関税、物品税を納付しなかつたからといつて、それを不正に免れたことにはならないのである。

勿論通常の輸入という手続も理論上考えられないこともないが、当時は上告人自身に対する外貨割当ということはなく、わずかに報導、観光用に多少の外貨が割当られたに過ぎないのであるから本件自動車輸入に当つて一般の輸入手続により関税、物品税を納付するという手続も存在しなかつた。

そこで特例法第一二条の看做輸入の場合始めて関税、物品税の納付手続が定められているのであるから、この場合に納税しないとき始めて不正に納税を免れたということができるのであり、その反対解釈として免税輸入の段階においては物品税を逋脱するということが存在しないのである。

また原判決はその理由において免税特権者の特例法による輸入は特例法第一二条の関税、物品税をも免れる為に行われたかの様に認定しているが誤りである。免税特権者の所謂資格変更による外国自動車輸入は、当時厳重な外貨割当制がとられていた我国の外為法の規制を免れる目的を以てなされたものであつて、関税並びに物品税を免れるために行われたものではない。また実際においても所謂資格変更の方法により輸入された外国自動車が特例法第一二条によつて「みなし輸入」されるときには、いずれも関税並びに物品税が納付されていたのである。よつて、原判決は旧物品税法第一八条第一項第二号の解釈並びに適用を誤つている。

2 上告人が旧物品税法第一八条第三項の犯人に該当するとした原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

同法一八条第三項の犯人とは行為者または納税義務者を指すと考えられるが、本件の場合行為者は大谷恒であり(その行為は原告自身の行為とは別に考えるべきである)、また前記法律における納税義務者とは当該行為によつて法律上利益の帰属する主体を指すと考えられるが、それはラングホツフアーであるといわねばならない。即ち大根進一には経済上利益が帰属するかも知れないが法律上利益に帰属しないのであるから大根進一が納税義務者であるという解釈も成立しない。

原判決においては旧物品税法第二二条に該当する法人も同法第一八条第三項にいう犯人であるとしているが、同法第二二条は罰則規定であつて追徴規定ではない。同法第二二条は違法行為を防止する義務を法人に負わせたのであり、そのためには罰則規定のみで足り、現実に利得していない法人から物品税を追徴する迄の必要はない。

原判決のいうように国家の租税収入確保の見地から逋脱物品税を徴収不能に終らせることなく、できるだけ徴収しようとするために二重の徴収はできないが、課税処分のみは刑事裁判から独立して行政措置として数人になし得ることを特に規定した法律の精神というような解釈を取ると、国家には甚だ都合のよいことになるが、国民の権利は甚しく侵害される。そこで罰金ということになればその金額に限度があるけれども、追徴ということになるとその金額に制限がないので、第三者に不測の損害を与えないため追徴の対象となるのは行為者または納税義務者に限定するというのが旧物品税法第一八条第三項にいう「犯人」の解釈である。即ち行為者または納税義務者はいくら追徴を受けてもやむを得ないが、第三者からは追徴しないということである。その解釈するのが被告人という字句を避けて「犯人」という字句を用いている条文の解釈にも合するばかりではなく、同法第二二条が同法第一八条を受けた規定の形式になつている法意にも合するのである。右についての解釈および適用を誤つている原判決は直ちに破棄さるべきである。

次に旧物品税法第一八条第三項は同条第一項をうけた規定であり(この点原判決は上告人が同法第二三条を問題としているかのような認定をしているが誤りである。)、第一項は物品税の逋脱罪に対する刑罰を定めた規定であるところからみて、第三項は刑事判決により同条第一項の逋脱罪が確定されたのにその時までに逋脱税額がいまだに徴収されていないときは直ちに未徴収税額を徴収しなければならない旨を定めたもので、刑事判決による逋脱罪の確定前に単に税務官庁が逋脱罪が成立すると認める場合に逋脱税額を追徴する旨を定めた規定ではない。してみると本件のように刑事判決により逋脱罪が確定されていない場合には、同法第一八条第三項の働く余地はないのである(原判決はこれを同法第二二条の問題であると擅りにすりかえている)。なお右については東京地方裁判所の第一審判決の判示、上告人が同裁判所へ提出した昭和三八年三月五日付準備書面第二、三、(六)(十四)の上告人の主張および原裁判所へ提出した昭和四〇年三月四日付準備書面第一、一の上告人の主張を全面的に援用する。同法第一八条第三項は同条第一項により「五年以上の懲役若くは五〇万円以下の罰金に処し又は之を併科」した場合には追徴すると読むのが最も自然な解釈であり、被上告人が主張するように「第一項の場合」とは「第一項各号に規定する各逋脱がある場合」と読むことはこじつけであつて不当である。

3 大谷恒の行為が上告人の業務に関してなされたものであると判断する原判決は旧物品税法第二二条の解釈並びに適用を誤つている。

上告人は本件自動車が所謂資格変更の手続によつて輸入されたことを知らないのであり、またその従業員大谷恒に所謂資格変更の手続によつて輸入することを指示したこともない。よつて大谷恒が所謂資格変更の手続によつて本件自動車を輸入したとしてもそれは大谷恒個人の行為であつて、上告人の業務に関してなされたとはいえないのである。

4 上告人の元従業員大谷恒および上告人は本件自動車の引取人でないのにかかわらず、旧物品税法第四条の引取人であるとした原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

大谷恒および上告人が本件自動車の引取人でないことは東京地方裁判所の第一審判決の理由において指摘する通りであり、同判決が「……大谷恒したがつて原告の演じた役割としては、本来の業務たる本件外車の引取代行を含む輸入手続の代行者としての域を脱していないものというべきであるから、原告会社が本件外車の保税地域よりの(引取人)であると断定するに足りないものといわざるを得ない。」と述べていることを全面的に援用する。

旧物品税法第四条に「引取り」または「引取人」というのは法律用語であり、法律的解釈の問題であつて事実上のものではない。即ち事実上引取つたものではなく法律上引取つた者が旧物品税法上の「引取人」であつて、本件の場合はラングホツフアーが引取人である。大谷恒および上告人の法律的立場はラングホツフアーが本件自動車を輸入するについての単なる手続代行者に過ぎない。原判決のいうように現実に引取りをなすものが引取人であるとすると、単なる手足または補助者の立場にある者が引取人になるという甚だ非常識な結果になつてしまうのである。

それに被上告人も「駐留米軍人等の関税等の免税特権を有する者が輸入する場合は、必ず免税特権者が輸入申告者となつていて、……これ等の申告者を原則的には引取人として物品税を徴収し、或は免税の資格を有する者に対しては免除の処理を行つたうえで保税地域より外車が引取られていた」と主張しているように、駐留米軍人等の免税特権者が引取申告者であり、引取人であり納税義務者であるから、大谷恒および上告人は引取申告者、引取人、納税義務者のいずれでもない。よつて原判決は旧物品税法第四条の解釈および適用を誤つており、それは判決に影響を及ぼすこと明らかである。

なお右については上告人が原裁判所へ提出した昭和四〇年三月四日付準備書面第一、二の上告人の主張を全面的に援用する。

二、原判決は特例法第六条第五号、第七条、第一二条等の解釈または適用を誤つておりその法令違背は判決に影響を及ぼすこと明らかである。

特例法第六条第五号、第七条は元来日本人を対象とした規定ではなく駐留米軍人、軍属のみを対象とした規定であるから、前記法例に基き輸入されたものを、日本人が輸入したものとすり代えることは許されない。

本件自動車は特例法第六条第五号に該当するとして駐留米軍属ラングホツフアーにより輸入されたものであるが、それを大谷恒および上告人が輸入したと考えるのは元来無理な解釈である。

特例法第六条は駐留米軍人、軍属に対して関税物品税を免除するということのみを定めたものであつて、この規定で行く以上強いて考えるならば駐留米軍人、軍属が「自己又は家族の使用に供する」意思がないときは、駐留米軍人、軍属から関税、物品税を徴収するということである。即ち特例法第六条に反するということは駐留米軍人、軍属についてのみ問題となるのであつて日本人または国内法が問題になることはあり得ない。従つて特例法第六条の規定に反するからといつて直ちに日本人を処罰または課税の対象にすることはできないのである。

極端にいうと、駐留米軍人または軍属に自動車を「自己またはその家族の使用に供する」意思があろうとなかろうと、特例法第六条の免税輸入であることには間違いないのであつて、この場合は国内法である関税法、物品税法の規定していない事項であるといわなければならない。

なお特例法は昭和三五年法律第一〇二号により「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基く施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う関税等の臨時特例に関する法律」と改名され、特例法が対アメリカを対象にし、専ら米軍人、軍属の地位を規定したものであることが明瞭にされたのである。

右特例法の場合米軍人、軍属のみを対象とするという解釈を取れる例として昭和二七年五月二〇日関税広報一二号に「……無免許譲渡については関税法第七六条の無免許輸入犯の罰則の規定が準用される(特例法第一一条)。従つて無免許譲渡犯には五年以下の懲役、五〇万円以下の罰金又はこれ等の併科が行われる。その予備及び未遂も同様である。本犯則の責任者は法定されているから合衆国軍隊の構成員、軍属これらの者の家族若しくは契約書等又はこれらの者であつた者以外にはその違反責任は及ぶことはない。従つてこれらの法定責任者の違反行為に加功し又はこれらの者と共同して犯則を侵してもこれらの身分を保有しないものは本犯則の共犯として罪責を問われることはないと解される。これらはこの法律が免税物品の譲渡の申告義務をこれらの者に限定して課しており、この他の者は何等譲渡申告の義務を負担しないからである」と解説されていることからも類推できるのである。即ち右解説によると駐留米軍人、軍属以外の者は犯則行為に加功し、または共同して犯則行為を行つても共犯として罪責を問われることがないという解釈をしている。

従つて右特例法第六条に反するからといつて、日本人の行為を直ちに国内法である関税法違反、物品税法違反の不正輸入に結びつけるのは誤りである。日本が対象となるのは右特例法第一二条第一項の「合衆国軍隊以外の者が、合衆国軍隊その他から六条(関税の免除)の規定の適用をうけた物品の譲受ける日本国内においてしようとするときは当該譲受を輸入とみなし関税法、関税定率法及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律を適用する)の場合であり、その反対解釈として、右看做し輸入の規定が適用される以前の免税輸入の時点においては日本人は特例法の対象にならない。即ち特例法第六条の場合には右特例法第一二条の反対解釈として国内法である関税法、関税定率法及び輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律(例えば物品税法)は適用されないのである。従つて日本人が対象とならない免税輸入の時点をとらえて旧物品税法第一八条、第二二条を適用したのは、同法第一八条、第二二条の解釈、適用を誤つているばかりでなく、特例法第六条第五号、第七条、第一二条等の解釈および適用を誤つており、それは判決に影響を及ぼすことが明らかである。

三、本件事実関係について、上告人の元従業員大谷恒および上告人の行為は全体として違法性がないと見るべきであり、それを違法性ありとして、上告人に対し旧物品税法第二二条、第一八条第一項第二号、同条第三項、第四条の規定を適用してなされた本件課税処分を適法とした原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。

1 本件事実関係については前記第一、一、二に述べたような事情がある外後に述べるような事情があり、それ等を全体として見た場合大谷恒および上告人の行為は違法性がないと判断すべきである。

即ち旧物品税法第二二条、第一八条第一項第二号、同条第三項第四条等の立法精神および特例法第六条第五号、第七条、第一二条の立法趣旨を考へ、一方本件の事実関係全体を通観し、その他諸般の事情を勘案した場合大谷恒および上告人の行為は旧物晶税法第二二条、第一八条第一項第二号、同条第三項、第四条に該当するまでの違法性はないと考えるのが至当である。

2 特例法第六条第五号および同法第七条の免税輸入に該当するという事実認定権限は米軍憲兵隊にあり、日本政府はその権利を米軍憲兵隊に委譲しているのである。

特例法第六条による免税輸入をするには

イ FEC三八〇様式の輸入申告書(米軍憲兵隊の認証が必要)

ロ 米軍憲兵隊の自動車輸入許可書

ハ CIQの許可証

等が必要であり、それ等の書類によつて、米軍所轄憲兵隊司令部はその権限に基き、自動車の輸入が日米安全保障条約に基く行政協定の円滑な実施を図るため公布された特例法における関税および内国消費税の免税規定により行われるものであることを適法に証明している。

本件自動車の輸入についても、ラングホツファーは、前記書類を適法に作成している外、本件については特に譲渡行為が介入しているため甲第六号証の一特別代理委任状、同第七号証の一譲渡証も作成しておりそれらの書類はいずれも米軍憲兵隊の認証を得ている〈証拠省略〉。

米軍憲兵隊は特例法第六条による免税輸入許可を与える場合は、必ず本人を呼出し「自己またはその家族の私用に供する」ものであることを真意を確かめて、その事実を確認し、且つ本人に誓約させた上、許可を与えているのである〈証拠省略〉。

従つて日本側官庁としては米軍憲兵隊以上に信頼できる方法により右事実を調査できないため、米軍憲兵隊の証明あり、且つ前記書類の整つている限り、それ等に偽造等の認められない以上全て特例法第六条による免税輸入を認める取扱をしている〈証拠省略〉。

もし米軍憲兵隊が前記のように公文書により証明または認証しているにもかかわらず、日本政府がその証明を認めないとしたら米軍憲兵隊が何のために前記証明しているのか意味がなくなつてしまう。

しかも米軍憲兵隊の前記証明は公文書である。

また米軍憲兵隊の認定に拘束されず、日本官庁において勝手に事実認定できるとしたら、日米政府の時々の政策により相互に意見の衝突をきたし、甚しい混乱が生ずるのである。

右の様な事情から日本政府は特例法第六条による免税輸入であるかどうかということの事実認定権限を米軍に委譲または放棄しているものと解釈すべきである。

即ち日本官庁は特例法第六条の輸入に該当するかどうかについて形式的審査権はあるが、実質的審査権は放棄または米軍憲兵隊に委譲しているものと見るべきである。

3 当時日本国内に流れていた外国自動車の殆んど全ては原判決にいう所謂資格変更の方法によつて米軍人、軍属から流れたものである。

本件行為当時我が国は国産車を保護育成し、手持外貨の節約を計る目的で厳重なる為替管理が行われ、外国自動車輸入の外貨は僅かに新聞報道関係、観光関係(ハイヤー用)に限られ、その数も全国で年七百台位と極めて少なかつた〈証拠省略〉。それに反し原判決も認めているように所謂資格変更の方法によつては月五、六百台も米軍人、軍属により日本国内に流れていたのである。特に当時は駐留米軍人、軍属の間で帰国費用調達等の目的で、小使かせぎのため、外国自動車を日本人に転売することが多かつた〈証拠省略〉。従つて、当時日本の官庁、国会議員、各会社等が使用していた外国自動車は殆んど全部原判決のいう所謂資格変更の方法によつて米軍人、軍属から流れたものである〈証拠省略〉。もし原判決の様に右手続を全部違法と考えるならば、自分で自分の首を締めることになる。即ち当時ほ国会を先頭に日本の主要機関が全て違法行為を行つたりまたは違法行為に加担していたということになるのである。

また外車輸入を抑圧する方法を取ればこれをなし得たにかかわらずそれをしなかつたのは、外車の輸入阻止は日本側の利益のみの観点から一方的に禁止規定を設けるときは米国側を刺戟し、日本品の対米輸出上必ず報復措置を採られること必至でこの危険があるため急進的になし得なかつたのである。

従つて横浜地方裁判所刑事第一部は古我信正に対する昭和三十二年刑(ワ)第一二〇二号関税法違反等被告事件について無罪を言渡し、その理由中で「従つて本件の如き場合に対処してこれが取締の徹底を期するためにはすべからく適宜の立法ないし行政措置が採られなければならないのであつて、この点に関する立法の不備または従前における行政取締の不充分を補うため本件行為の可罰性を認めることは許されない」と述べている。

結局、所謂資格変更による外車輸入は当時関税法、物品税法、外為法上は勿論、経済、社会通念上も適法と考えられていたのである〈証拠省略〉。よつてそれを違法であるとした原判決には法令の解釈および適用の誤りがある。

4 本件自動車は不当に高い値段で転売されたものではなく、またこれによつて大谷恒および上告人が利益を得たのでもない。むしろお客が転勤等のため購入、自動車を必要としなくなつたときは、転売の斡施をすることこそ商道徳上の義務である。

当時ベンツは駐留米軍人の間でも、特に優秀車として評判が高かつたので、直ちに必要な人のために、相当なプレミアムがついても何等不思議はない〈証拠省略〉。

即ち正規の免税輸入をするにはその輸送期間においても三ケ月ないし四ケ月の月日を要する上、当時(現在でも変らないが)ベンツ株式会社に対し世界各国よりベンツ自動車の註文が殺倒し、ベンツが量産車でないため、その需要に応じきれず、日本の様な遠い国から註文したのでは何時船積されるか見当もつかない状態であつた。現に本件自動車についても船積が四ケ月も遅れているが、それは早い方なのである〈証拠省略〉。従つて何時日本より転勤するのかわからない駐留米軍人、軍属にとつては、直ちにベンツ自動車が欲しいのであつて六ケ月も、一年も先になつて右自動車が手に入つたのでは何の意味もないことを充分考えるべきである。そこにプレミアムが生ずるのであつて原判決のように考えたのでは利益を得る商売は皆違法であると解さねばならなくなつてしまう。

それ故にハツチンスとしても当時における時価としてその転売価格を五、〇〇〇ドルと指定し、またラングホツフアーが五、五〇〇ドルで本件自動車を買つたとしても何等不思議はないのである。原判決の認定しているように免税特権者であれば右の様に高い自動車を買わない筈であり、従つて本件の場合にはラングホツフアーに使用する意思がなかつたと結論するのは飛躍であり、経済の実態を全く無視するものである。

5 本件についてラングホツフアーが告発もされず、また課税処分の対象にもならないのは本件課税処分に無理があることを立証している。

本件についてラングホツフアーは当然原判決の認定する不正輸入の中心人物であり、また有資格者なのであるから、通常の場合なら当然無資格者たる日本人より真先きに且つ一番重く処罰されなければならない。しかるにラングホツフアーに対しては刑事処分も課税処分もなされていないのである。

また〈証拠省略〉各判決の事件においても、日本人は全て起訴されているにかかわらず、その中心人物であるアプアン、フイツシヤー、デシエサス、バラーク等はいずれも刑事処分、課税処分のいずれもなされていないのである。

勿論米軍人、軍属が間接正犯として利用されその情を知らないというのなら話は別であるが、右各事実は米軍人、軍属がいずれも所謂資格変更に利用することを知り且つ不当な利益を得たことが証拠上明確にされているのである。

右事実は所謂資格変更手続が違法でないということを如実に立証しているものといわねばならない、そう解しないと日本人と米軍人、軍属との間に差別を設けることになり、法の下の平等に反することになるのである。

6 判例も所謂資格変更による外車輸入が不正輸入に該当しないことを判示している。

即ち上告人の昭和三十六年七月十三日附準備書面六に記載の通り横浜地方裁判所は所謂資格変更の手続が不正輸入に該当しないことを判示している〈証拠省略〉。また東京高等裁判所も右判決を支持している〈証拠省略〉。

しかも右事件については大谷恒、大根進一、大崎多知郎と行為者も本件と全く同一人であり、本件課税処分の対象となつた大谷恒および上告人の行為と全く同一種類、同一方法によるものである。

確かに刑事事件と行政事件はその目的を異にするが、右刑事事件は純粋の刑事事件ではなく、政策目的で規定されたものであり、被上告人の主張する物品税法違反の事実も前記刑事判決と同様に解すべきである。それに刑事事件も行政事件も同一法律の同一解釈であり、その間にくい違つた判決をすることは許されない。

しかも被上告人の主張する本件物品税法違反の刑事事件について、大谷恒は有罪となる見込がつかないため、昭和三十五年六月三十日横浜地方検察庁において不起訴処分となつている。本来なら本件は大谷恒に対する前記横浜地方裁判所昭和三十二年(わ)第一五五八号物品税法違反等被告事件の事実よりも金額において多額であり、情状もよくないので当然起訴されるべきであるが、検察庁では前記無罪判決等を考慮して起訴しなかつたと認められるのである。

7 要するに本件は所謂資格変更の方法による外国自動車輸入が違法であるかどうかという評価が主な争点となつているのである。

即ち右輸入手続の違法性評価の問題であるとみるべきである。

右について〈証拠省略〉各判決および東京地方裁判所の第一審判決はそれぞれの立場から理由を述べているが、要するにその裏に流れている法思想はいずれも所謂資格変更の方法による外国自動車輸入が違法でないということに尽きているのである。右各判決は無罪または課税処分の取消を説明するに当つて、それが事実の問題であるかの様に述べているところもあるが、それは単なる説明のための説明に過ぎず、結論は所謂資格変更の方法による外国自動車輸入手続が違法でないということである。従つて違法性という点から考えるとそれは普遍的なものであるから同一法律の同一条文を解釈するに当つて刑事事件と行政事件とで異る結論がでるのはおかしい。勿論刑事法には刑事法の目的があり、行政法には行政法の目的があるのは当然であるが、右刑事事件は行政法的色彩の強い刑事事件であるし、本件課税処分は刑事的色彩の強い行政処分であるから前記各刑事事件の無罪判決における所謂資格変更の方法による外国自動車輸入が違法でないという判断はそのまま本件課税処分にも適用さるべきである。即ち本件の場合は同一法律の同一条文の解釈として共通に考え、その適法性についての判断は同一結論となるのが最も正しい解釈である。

よつて原判決が大谷恒および上告人の本件行為を違法であると判断しているのは判決に強響を及ぼすべき法令の違背があるといわねばならない。

四、本件物品税賦課処分は二重課税であり違法であるのにかかわらずそれを適法とした原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違背がある。

1 本件物品税賦課処分は二重課税であり違法である。

昭和二九年法律第六一号による改正後の関税法のもとにおいては、関税法規に違反して輸入された貨物の没収に代る追徴は「犯罪が行われたときの犯罪貨物の価格に相当する金額」についてされることになり、その額には関税および内国消費税(物品税)の額が加算されるべきものと解されるので犯罪貨物の原価に相当する金額のみを追徴した旧法下での解釈とは異つて、そのうえ更にこれらの税金を賦課することは二重の負担を科することになり違法である(大阪高等裁判所昭和三五年(ネ)第九六五号物品税納税告知処分取消請求控訴事件について、昭和三七年三月二九日言渡された判決、判例タイムス一三三号参照)。

右については原判決が「ところで、旧関税法(昭和二九年法律第六一号による改正前のもの)第八三条第三項は、追徴の場合は、犯罪貨物の「原価」に相当する金額を追徴する旨、同条第四項は、追徴をなす場合には、犯罪貨物に対する関税は犯則当時の所有者より徴収する旨、それぞれ規定していたが、同法には、没収の場合に関税の徴収をなし得る旨の規定は存しなかつた、右のように追徴の場合は関税を徴収し、没収の場合にはこれを徴収しないものとしたのは、追徴の場合は前記の如く犯罪貨物の原価に相当する金額のみが追徴されるため、更めて関税を徴収する必要(そうしないと、犯罪貨物に係る関税および物品税の額に相当する金額を犯人の手に留めしめることになる)があつたのに反し、没収の場合は、国が犯罪貨物を公売し、その公売価格は、その貨物の原価に関税および内国消費税を含んだ国内卸売価格とみるべきであるから、別途に関税を徴収する必要がなかつたためと考えられる。しかるに、前記法律第六一号により改正された新関税法一一八条第二項は、犯罪が行われた時の犯罪貨物の価格に相当する金額を追徴する旨の規定し、追徴すべき金額は、犯罪貨物の原価に関税および内国消費税を含んだ国内卸売価格に相当する金額であることを明らかにすると共に、旧関税法第八三条第四項の規定を削除した。一方、物品税法は、昭和三七年法律第四八号により改正されるまでは、その第一八条において、詐偽その他不正の行為により物品税の逋脱がなされたときは、その犯人から直に物品税を徴収する旨を規定していた以上のような関税法の改正に関する経過から考えると、犯則に係る輸入貨物に関しては、旧関税法施行当時においては、没収がなされた場合には、関税および物品税は徴収できず追徴の場合には関税および物品税を徴収し得たけれども、昭和二九年法律第六一号により改正された新関税法施行後においては、没収、追徴のいずれの場合にも、関税および物品税を別途徴収することは禁止せられるに至つたものと解するのが相当である。けだし、旧関税法下では、追徴は犯罪貨物の原価に相当する金額によるべきものとせられていたのに、新関税法の下では、追徴金額は関税および内国消費税を含んだ国内卸売価格に相当する金額によるべきものと変更された以上、追徴のほか更に犯則に係る輸入貨物に対する関税および物品税を徴取することは犯則者に対し実質的に二重の租税を負担せしめる結果になるからである。新関税法が前記の如く旧関税法第八三条第四項の規定を削除し、また輸入品に対する内国消費税の徴収に関する法律(昭和三七年法律第四八号による改正後のもの)第一〇条の二が、内国消費税物品につき関税法第一一八条その他の法令の規定により没収又は追徴が行われた場合には、当該物品に係る内国消費税は課さない旨規定するに至つたのも、以上の理由によるものと思われる右に反する控訴人の見解は採ることができない」と判示しているのを全面的に援用する。

2 しかるに原判決は本件物品税賦課処分が大根進一に対する追徴判決より以前になされているから適法であると判示しているがそれは甚しく不当である。

即ち原判決は「これを本件についてみるに、前記認定の事実からすれば、本件自動車に係る関税および物品税の逋脱に関しては、大根進一は、大谷恒と共犯の関係にあつたものと認めて差支えがなく、大谷恒および被控訴会社とともに、いずれも当時施行の関税法第一一八条第二項および物品税法第一八条第三項にいう犯人に該当するものであるから、その一人である大根進一において、本件課税処分に先だち追徴の判決を受け、その追徴金額を完納していたとすれば、右追徴金額には前示の如く本件自動車に係る物品税相当額が含まれているのであるから、二重追徴を避けるために、被控訴会社に対しては、もはや更めて物品税を課し得ない関係にあつたものということができる。しかし、本件課税処分がなされた当時においては、いまだ大根進一に対し追徴の判決がなされていなかつたのみならず、前記犯人のだれからも本件自動車に係る物品税が現実に納付されていなかつたのであるから(被控訴会社は、本件自動車は既に没収されていたと主張するが、これを認めるに足る証拠はない)、いずれにしても本件課税処分は、二重課税の違法を犯すものということはできない。」と述べている。しかしこの解釈は全く誤りである。

蓋し原判決の解釈は行政庁の利己的都合のみを考えたものであつて、国民の当然の利益を無視している即ち物品税賦課処分の時期が追徴判決の時期より早ければ物品税を徴収しても違法ではなく、それが逆になれば違法であるとするような法律解釈が果して妥当であろうか、またその様な解釈を採つて国家の法秩序、法的安定性を維持することができようか。甚だ疑問であるといわねばならない。

物品税賦課処分の時期と追徴判決の時期との関係によつて、ある物品税賦課処分は適法でありある物品税賦課処分は違法であるとすれば、その課税処分を受ける国民の間に甚しい不公平が生ずる。原判決の解釈は本件物品税賦課処分を維持せんがための苦肉な解釈に過ぎない。

それに本件賦課処分をなす前既に被上告人は大根進一を横浜地方検察庁に告発しているのであるから、当然前記追徴判決を受けることが予想され、その様な状態でなした本件物品税課税処分は違法である。

原判決の解釈は行政庁の都合が良ければ法律を無視し、違法手続をしてもかまわないということであつて甚だ不当であるといわねばならない。

3 被上告人は本件物品税法違反の事実により上告人および大谷恒を告発しているので、更に本件物品税を追徴するのは違法であるにもかかわらずそれを適法とした原判決は不当である。

原判決の判示によると「……控訴人(被上告人)は昭和三四年一一月二六日付昭和三四年告発第四五号告発書に基き、被控訴会社(上告人)を本件自動車に係る関税法および物品税法違反の嫌疑者として、東京地方検察庁に告発し右事件は翌日同検察庁において受理されたことが明らかである……」と述べ、また被上告人も主張しているように被上告人は本件物品税法違反の事実により上告人および大谷恒を告発している。その場合被上告人はその主張に係る本件物品税法違反の事実を刑事処分によつて処理する意思を明示したものであり、上告人および大谷恒が刑事処分による追徴判決によつて本件物品税を納入することを期待したのである。

その様な事情の下において被上告人が本件物品税賦課処分をしたのは、原判決が前記の如く「……昭和二九年法律第六一号により改正された新関税法施行後においては没収追徴のいずれの場合にも、関税および物品税を別途徴収することは禁止せられるに至つたものと解するのが相当である」と述べ更にまた二重課税防止の立場から旧関税法第八三条第四項の規定を削除し、また輸入品に対する内国消費税の徴収に関する法律(昭和三七年法律第四八号による改正後のもの)第一〇条の二が内国消費税課税物品につき関税法第一一八条その他の法令の規定により没収又は追徴が行われた場合には当該物品に係る内国消費は課さない旨規定するに至つたと述べている立法精神、法体系を全く無視するものであり違法である。

しかるに原判決は刑事処分による追徴判決により以前に課税処分が行われれば適法であると判示している。それでは昭和二九年法律第六一号による新関税法改正の趣旨が全く没却されることになつてしまうのである。

そこで前記立法趣旨を考え、関税及び輸入に伴う内国消費税である物品税については、二重課税防止の立場から告発した場合には追徴せず、追徴した場合には告発しない取扱になつていると解釈するのが正しい(上告人の昭和三八年三月五日付準備書面第二、二に記載の通り)。

4 原判決は本件課税処分による納税がなされていれば刑事事件の追徴判決において、右課税処分による納付金を差引いて判決すべきであり、また大根進一に対し前記追徴金の納付の執行をなすに当り、上告人において既に納付した前記金額を控除して執行をなすべき措置を採るのが当然であると述べているが、それは原判決のみの新説であり、一般的法律解釈として認めることはできない。

即ち原判決は「……被控訴会社(上告人)は本件課税処分に基き昭和三五年五月四日本件自動車に係る物品税のうち金四一三、九〇〇円を国に納付したことが明らかであるから、この事実に関する資料が前記刑事事件に現われていたならば、大根進一に対する前記追徴の判決において、右納付に係る金額を差し引いた金額の追徴を命じなければならない筋合であつたにすぎないというべきである。したがつて、国としては同一物件につき実質上二重に物品税を徴収するような結果の生ずることを避けるため、大根進一に対し前記追徴金額の納付の執行をなすに当り、被控訴会社(上告人)において既に納付した前記金額を控除して執行をなすべき措置を採るのが当然ではある……」がと述べているが、右の様な法律解釈は一般的に認められていないのである。

即ち右の解釈は法律の規定に基かない全くの独断的解釈である。

刑事事件と行政事件との関係について原判決の判示しているような解釈の根拠条文はどこにもない。原判決の右解釈が誤りであることは例えば追徴判決の場合ではなく、没収判決の場合を考えてみれば一目瞭然である。

即ち本件課税処分がなされた場合もし大根進一に対し没収判決を言渡すとすれば当然二重課税になつてしまうし、もし二重課税を防止するとすれば大根進一に対し没収判決を言渡すことが法律上不可能になつてしまうのである。

原判決の解釈は甚だ奇妙な解釈であるといわねばならない。

次に大根進一に対する右刑事事件につき東京高等裁判所の公判には、上告人が本件物品税を納付した旨の領収書が提出されているのである。

東京高等裁判所刑事部は右領収書が提出されているにもかかわらず、上告人が納付した本件物品税の金額を差引かないで、大根進一に対し金二、一五二、〇〇〇円の追徴判決をしている。従つて東京高等裁判所刑事部も原判決の右解釈を否定しているのである。

五、本件課税処分の手続は違法であるにもかかわらず、それを適法とした原判決には判決に影響を及ぼすべき法令の違背がある。

本件納税告知書には納付の目的として追徴昭和三四年告発第四号と記載されているのみで、そのほかには理由らしきものの記載がなく、右の記載が課税の理由であるとしても、上告人は告発されたことがないから虚偽の理由の記載というべく、したがつて、右の如き納税告知書に基く本件課税処分は違法であつて取消を免れない。

第二、原判決には審理不尽または理由に齟齬がある。それは判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、原判決は「……本件課税処分に基き昭和三五年五月四日本件自動車に係る物品税のうち、金四一三、九〇〇円を国に納付したことが明らかであるからこの事実に関する資料が前記刑事事件に現われていたならば大根進一に対する前記追徴の判決において右納付に係る金額を差し引いた金額の追徴を命じなければならない筋合であつたにすぎないというべきである。……」と判示しているが事実は本件物品税を納入した旨の領収書が大根進一に対する前記刑事事件について、東京高等裁判所の公判廷に証拠として提出されているのである。

上告人、被上告人のいずれも右領収書が東京高等裁判所の前記刑事事件に提出されていないというようなことを主張しておらず、またその旨の証拠も提出していない。

よつて原判決は当事者の主張または証拠に基かない右事実を判断したことになり理由に齟齬あるものといわねばならない。しかも原判決の事実認定は誤つているのである。

二、原審において上告人は昭和三九年一〇月八日付事件記録取寄申出書に基き大根進一に対する前記刑事事件の一件記録を取寄せ、原裁判所に検出している。

そこで原裁判所は本件物品税を納入した旨の領収書が大根進一に対する前記刑事事件について、東京高等裁判所の公判廷に証拠として提出されているということを明瞭にするため、当然前記刑事事件の一件記録を調査するか、または当事者双方にその点の主張、立証をするよううながすべきである。

しかるにその労を取らず、しかも当事者の主張、立証に基ずかないで、右誤つた事実を認定した原判決には審理不尽があるといわねばならない。

三、大根進一は前記刑事事件について、東京高等裁判所刑事部より言渡された金二、一五二、〇〇〇円の追徴金を納入しているのにかかわらず、原判決はそれを否定している。

しかし当事者双方とも大根進一が右追徴金を支払つていないというような確定的主張をしておらず、またその旨の証拠も提出していないのである。よつて原判決は当事者の主張または証拠に基かないで右誤つた事実を認定したことになり原判決には理由齟齬にあるものといわねばならない。また大根進一が右追徴金を支払つたか否かということが原判決の心証上決定的役割を果すと考えるならば当然その点の主張、立証を当事者にうながすべきであるのに、それをせずに右事実を認定した原判決には審理不尽があるといわねばならない。

第三、原判決には憲法の違背がありそれは判決に影響を及ぼすこと明らかである。

一、大根進一が原判決の判示するように、横浜地方裁判所刑事部、東京高等裁判所刑事部においてそれぞれ金二、一五二、〇〇〇円の追徴判決を受けているのにかかわらず、本件課税処分をなすのは二重課税強いるものであり、憲法第二九条、同第三〇条に違背する(大阪高等裁判所昭和三五年(ネ)第九六五号物品税納税告知処分取消請求控訴事件昭和三七年三月二九日言渡、判例タイムス一三三号参照)。

二、原判決は大根進一に対する右刑事事件の追徴判決より以前に本件課税処分がなされているから適法であると判示しているが、これは、法律の規定に基ずかない独断的解釈であり、憲法第三〇条に違背する。

三、被上告人は上告人を本件物品税法違反により東京地方検察庁に告発しているのであるから、上告人が刑事処分による追徴判決を受けることが予想されていたにもかかわらず、本件課税処分をなしたのは二重課税であり憲法第二九条、同三〇条に違背する(最高裁判所昭和三〇年(あ)第二九六一号関税法違反未遂被告事件昭和三七年一一月二八日言渡、判例タイムス一三九号等、同裁判所昭和二九年(あ)第五六六号関税法違反被告事件昭和三七年一二月言渡判例タイムス一三九号等参照)。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例